一人の部屋と二人の夜
———わかっているつもりだ。私はもう子供じゃない。
こんな時間に会いたいと言って、もし佐伯も同じ気持ちだったとしたら、会って少し話しておやすみなさい、では済まないだろう。
結婚式の余韻に仕事への達成感、それに高級ホテルというシチュエーションで、好きな人と同じ部屋にいれば。
それをわかった上で、それでもいいと思ってしまう程度には、佐伯のことを好きになっている。
むしろ、私はそれを望んでいるのかもしれない。
仕事の時や食事の時とはまったく違う、”オトコ”の佐伯はどんな顔をするのだろう。
考えるとドキドキして、そんな自分が重症に思えて、火照った顔に手を当てた。
突然、ベッドに放ったままになっていた携帯が音を立てた。
一人きりの静かな空間にいたので、驚いて小さく声を出してしまった。
こんな時間に一体誰からだろう。
窓から離れて、携帯を手に取った。
別に期待していたわけじゃない。連絡が来るかもなんて、思っていなかった。
メールの差出人が”佐伯一哉”と表示されているのを見て、途端に心臓がばくばくと大きな音を立て始めた。
メールの内容は、まるで私の心を読まれたかのようだった。
たった一言、”会いたい”。