一人の部屋と二人の夜
震える手で必死に携帯を握り締めた。意味もわからず涙が出そうになる。
嬉しくて嬉しくて、誰もいないのをいいことにベッドに飛び乗った。
やっぱり今夜何かが起きる。
深呼吸して、正座して、発信ボタンを押した。
呼び出し音を聞いている時間がやたら長く感じられて、携帯を持っていないほうの手でシーツをぎゅっと掴んだ。
「……はい」
スピーカーから聞こえてきた佐伯の声に、息が詰まりそうになった。
どうしてかいつもより数倍甘さを増したその声が、耳から全身へ愛しさを流し込んでくるようだ。
「……さ、えき」
「ごめん、起こした?」
「ううん、起きてた」
佐伯はよかった、と呟いて、少し笑った。
その笑顔が見たい。電話越しなんかじゃ、満足出来ない。全然足りない。
「………私も、会いたい」
いつもより声が高かったかもしれない。少し震えていたかもしれない。
だけどこの一言を発するだけで精一杯だった。
緊張して喉がカラカラで、自分が自分じゃないみたいで。
佐伯は少しの間何も言わなかった。
そのかわり、ガタガタと物音が聞こえてくる。
もしかして、聞こえなかったのだろうか。もう一回言う勇気はもう残ってないのだけれど。
どうしようかと思った時、佐伯が声を出した。
「鍵、開けて」