一人の部屋と二人の夜
「え?」
意味がわからず首を傾げると、部屋のドアが控えめにノックされた。
「ここ、開けて」
佐伯の声が耳元から聞こえているのか、ドア越しに聞こえてきているのかよくわからなくなった。
すぐそこに来てくれている。
会いたいと言ったら、会いに来てくれた。
勢いよく立ち上がり、小走りでドアの前に行った。
でも鍵を開けようとした時、佐伯が「やっぱり待って」と言った。
顔が見られる寸前で止められて、戸惑ってしまう。急に不安になってきてドアから手を離した。
すると、佐伯も同じように不安なようだった。
「……もし今、このドアを開けてもらってそっちの部屋に入ったら、さ」
「うん?」
「俺、何もせずにいられる自信、ない」
「!」
「だからお前が嫌なら、開けないでくれ」
そんなことを言う佐伯が愛しくて、大切で、甘い気持ちが込み上げてくる。
どうして今までの五年間平気で側にいられたのか、不思議になってくるほどだ。
いつもいつも、最後には佐伯の隣に居座っていたのに。
私は少しも迷うことなく、ドアの鍵を開けた。