悪人きどり

 「良くする?とはいったい何を差しているのかはわかりませんね。私はあなたを好いている。生徒でなく女として。それだけです。それ以上等ない」

 女として。

 その言葉の真意を探る言葉遊びを何度繰り返したか忘れた。

 先生は私が好きだ。

 告白されたあの日から、落ち込むたびこうして呼び寄せては同じことを聞いた。

 先生はいい加減嫌になったのか、カップを置いて机の上で指を組み合わせた。

 「いいのですか?知道 菫(ちどう すみれ)」

 「フルネームで呼ばないで」

 「菫」

 「そんな呼び方しないで!」

 ただ名前を呼ばれただけなのに、先生が呼ぶといやらしく感じる。

 薄気味悪い笑みを浮かべ、陶酔しきったような熱い目を向ける先生から視線を逸らした。

 「ほら、またあなたは私の心を振り回す。かき乱す。いいのですか?そんなに煽って
。これ以上溺れて行けば、あなたは私から逃れられませんよ?」

 まるで逃げろと言われているみたいに、先生は私を捕まえる気がないかのように語る。

 
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