1年後のプロポーズ
それから私たちは高級感のあるフロントでチェックインの手続きを済ませ、案内された部屋へと向かった。

上層階のその部屋は白を基調とした落ち着いた雰囲気で隅にはクリスマスツリーが置かれている。窓の外には夜の海が広がっていて、1年前に見たときと同じ景色にまたも当時の思い出が甦る。

「おっ!スパークリングワインあるじゃん」

一方の彼はサイドテーブルに置かれているワインボトルにまず目がいったようで、嬉しそうな声をあげた。結婚1周年記念のホテルからのプレゼントだろう。

「ディナーまでまだ時間あるから飲む?」

彼が、近くにあった二人分のグラスにワインを注ぐ。

「これいくらするんだろう。この部屋も普通に泊まればけっこうな額だよな」

そう呟いた彼のスマホが突然着信を知らせた。電話のようで、持っていたワインを置くとズボンのポケットからスマホを取り出す。

「げっ!親父からだ」

嫌そうな顔をしながら、鳴り続けるスマホを耳に当てる。

「もしもし……」

仕事の話だろうか。彼は部屋の隅へ移動して私に背を向けると小声で電話を続けた。

彼の実家は小さな町工場を経営していて、彼は高校を卒業してすぐに家業を手伝っている。経営状態はあまりいいものではないらしく、それでも昔から続いている工場を家族と数人の社員で支えていた。

一方の私は都内の四年制大学を卒業してから大手電気メーカーへ就職して営業の仕事をしている。

小さな町工場で働く彼と大手企業で働く私とではやっぱり私の方が給料が高い。

どうやら彼はそれを気にしているようで、私との結婚を渋った原因でもあった。
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