1年後のプロポーズ
「あっ!」

そのとき彼の大きな声が聞こえて、驚いた私は手に持っていた箱を落としそうになった。

電話を終えた彼が慌てたように駆け寄ってくると、私の手から箱を奪い素早く背中に隠した。

「見た、よな?」

そう言った彼の表情はなんだかとても焦っている。

「ごめん。見ちゃった」

そう告げた私に彼は「マジかぁ」と手で顔を覆った。

「見ちゃったのか」
「だってカバンからジュエリーブランドの紙袋なんか見えて気になって」
「だからって見るなよな」
「そうだよね。ごめん」

これは完全に私が悪い。

もしかしてこれは彼が私のために用意してくれたクリスマスプレゼントかもしれない。きっとタイミングを見計らって私に渡すはずだったんだろう。それを先に見つけてしまうなんて……。

さらにばつが悪いことに、私は彼へのレゼントを用意していなかった。

結婚してからは誕生日やクリスマスのプレゼントはお互いナシにして、代わりに少し豪華な料理を一緒に食べようと決めていた。それなのに彼はサプライズで用意してくれていたんだ。

「ごめん。私、プレゼントなにもない」
「えっ?ああ、これはその……」

そういう意味じゃなくてだな、と彼はぼそっと呟いた。そして背中に隠していたブルーの箱を私に見せる。

「本当はもっと雰囲気だしてから言おうと思ってたけど、見られちゃったものは仕方がないか」

そう言うと彼は箱に飾られている白いリボンをほどき、中に入っていた紺色のケースを取り出した。ぎこちない手の動きでその蓋をゆっくり開くと、現れたのは一粒のダイヤが輝く指輪だった。


「俺と結婚してくださいーー」


「ーーえ……」

一瞬、なにを言われているのか分からなかった。きょとんとしている私に彼はそっと声をかける。

「左手だして」

言われた通りに手をだすと、彼の左手がそっと添えられる。私の薬指と彼の薬指にはお揃いのマリッジリングが輝いている。

「渡す順番ちがうけど……」

そう言って彼は私の薬指のマリッジリングと重なるようにして一粒ダイヤの輝く指輪ーーエンゲージリングをはめてくれた。

「結婚してください」

ようやく意味を理解した私の目には涙が溢れた。

私は今プロポーズをされたのだ。
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