流れ星はバニラの香り
一彦は、絵に描いたような男だった。顔もスタイルもよく、仕事も順調で年収もしっかりあって、ファッションセンスも悪くなかったし、酒やギャンブル、女にかまけることもない。正直に言えば、どうして私なんかとつきあってたんだろう。一彦の隣にいるには、ちょっとどころではなく不釣り合いな女だ。それなのに、私にやさしく、丁寧な一彦のことが好きだったのだけれど。
彼の横には、絵に描いたような女性が似合う。何不自由なくあたたかい家庭で育てられて、大学を無難に卒業して、雑誌から出てきたようなちょっと控えめな格好の、丸みのあるやわらかい女性。こいつと結婚したら、家庭生活は安定だなあって思わせるようなひと。自我のないような、それでいて不満なく生きているやつ。
むなしくなって、妄想をやめた。私とはきっと一生相容れない存在のことなんて、考えてたってしかたがない。
ルームキーを差し込む。部屋に光が満たされ、夜景を映し出す窓ガラスに、私の姿がうっすら浮かび上がる。
これが、現実だ。ここにいるのは、やたら背だけでかくって、女性らしいやわらかさなんて存在しない女。一度も巻いたことのない黒髪に真っ赤なマニキュア、控えめなんて単語知らないんじゃないかっていう、自己主張の激しそうな女。やりたい仕事も、趣味も、全部自力で叶えてきた。きっと、男みたいな、女。
だから、振られるんだろう。一彦にとって、私はたまに食べたくなるようなスナック菓子みたいなものだったのかもしれない。しかも安定ののり塩とかコンソメじゃなくって、なにそれって味のやつ。唐辛子系のからいやつとか。おいしかったけど、毎日はいらない。たまにつまみたくなる、癖のこいもの。おいしかったかどうかもわかんないけど。一年、続いたんだから悪くはなかったんだろうと思いたい。
部屋に置かれている電話が鳴った。フロントからだ。気持ちを切り替えて受話器を取る。支払い関係は一彦が先に済ませていたはずだけど、なにか面倒なことだったら嫌だ。
なんて思ったけど、電話の中身はただのやさしいサービスだった。ディナーでお食べにならなかったガトーショコラを、よろしければお部屋に運びましょうか。きっといろいろ察知しての気遣いなんだろう。今この部屋に私しかいないことぐらい、きっと知っている。ありがたく、断った。おいしそうなガトーショコラだったけれど、今の私には、このカップアイスがよく似合う。
彼の横には、絵に描いたような女性が似合う。何不自由なくあたたかい家庭で育てられて、大学を無難に卒業して、雑誌から出てきたようなちょっと控えめな格好の、丸みのあるやわらかい女性。こいつと結婚したら、家庭生活は安定だなあって思わせるようなひと。自我のないような、それでいて不満なく生きているやつ。
むなしくなって、妄想をやめた。私とはきっと一生相容れない存在のことなんて、考えてたってしかたがない。
ルームキーを差し込む。部屋に光が満たされ、夜景を映し出す窓ガラスに、私の姿がうっすら浮かび上がる。
これが、現実だ。ここにいるのは、やたら背だけでかくって、女性らしいやわらかさなんて存在しない女。一度も巻いたことのない黒髪に真っ赤なマニキュア、控えめなんて単語知らないんじゃないかっていう、自己主張の激しそうな女。やりたい仕事も、趣味も、全部自力で叶えてきた。きっと、男みたいな、女。
だから、振られるんだろう。一彦にとって、私はたまに食べたくなるようなスナック菓子みたいなものだったのかもしれない。しかも安定ののり塩とかコンソメじゃなくって、なにそれって味のやつ。唐辛子系のからいやつとか。おいしかったけど、毎日はいらない。たまにつまみたくなる、癖のこいもの。おいしかったかどうかもわかんないけど。一年、続いたんだから悪くはなかったんだろうと思いたい。
部屋に置かれている電話が鳴った。フロントからだ。気持ちを切り替えて受話器を取る。支払い関係は一彦が先に済ませていたはずだけど、なにか面倒なことだったら嫌だ。
なんて思ったけど、電話の中身はただのやさしいサービスだった。ディナーでお食べにならなかったガトーショコラを、よろしければお部屋に運びましょうか。きっといろいろ察知しての気遣いなんだろう。今この部屋に私しかいないことぐらい、きっと知っている。ありがたく、断った。おいしそうなガトーショコラだったけれど、今の私には、このカップアイスがよく似合う。