聖なる鐘が響く頃
社会に出て6年が経ち、俺たちは28歳になっている。

美人だがどこか隙のある実希は、なぜかロクでもない男にばかり引っかかる。
つまらない奴のせいで泣いている姿を何度も見てきた。


もうたくさんだ。



「ストップ、」



空になったグラスに手で蓋をした。


「この辺で一回止めとけ。」

「へ、」


お代わりを頼むつもりだったのだろう。メニュー表を眺めていた実希がきょとんとした顔でこちらを向く。
ジャズライブも終盤に差し掛かっていた。


「何で?」

「いや……だから」


右ポケットのカードキーをもう一度握りしめる。


逆立ちしたって泊まれないホテル。
でも今日だけは予約を入れた。



だってクリスマスだ。



お祭り騒ぎの世間の雰囲気に、背中を押して欲しかった。
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