囚われた花嫁
「…このベッドは狭い」
「あ、当たり前じゃないですか!シングルベッドですよ!落ちないうちに起きてください!」

…、睨まれた。私は目をパチパチさせて、星空を見た。

「…狭いからこうやってくっついてる」
「…仕事は行かなくていいんですか?」

抵抗は諦めて、飽きれ気味に呟いた。

「…行きたくない。年寄りばっかりの相手は疲れる」

…初めて会った時の威厳は、迫力は、どこへいってしまったんだろう?今私の横にいる星空は、まるで、小さな駄々っ子のように見えて、なんだか、可愛く見えた。

クスッと思わず笑ってしまう。

「…ここに来て、初めて笑ったな」
「…ぁ」

そう言えば、そうかも。

そう思ったときだった。星空が私の頭をグシャグシャっと撫でると、急に起き上がった。

呆気にとられる私を余所に、星空は、部屋を出ていく。ドアが閉まるとき、微かに見えた星空の顔は、少し優しい顔をしていたような、気がした。

優しいのか、冷たいのか、怒りっぽいのか。

会って間もない私には、わからない。

でも、これだけは言える。

悪い人ではないと言うこと。

私はまた、笑みを浮かべた。

…思った通り、星空は悪い人じゃないと言えざる終えなくなった。

その日の晩も、また次の日の晩も、週末まで、星空は毎日午後8時には、帰宅した。そして、私と毎晩夕食を食べてくれた。

会話はほとんどない。とても静かな空間。居心地悪かったものが、とても心地いいものに変わった。

「…星」

土曜の夜、食事を終えた星空が、珍しく私に話しかけた。

「…しばらく仕事で帰らない」
「…ぇ」

「…一月ほど、海外に行くから、その間、一人になるから、戸締まりだけは気を付けろ」

「…一月も、ですか」

あからさまに、しゅんとなる私を見た星空だったが、自室に消えた。…星空にとっては、なんてないことよね。
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