囚われた花嫁
その日の晩、本当に星空は帰ってこなかった。社長という仕事がどんなものなのか、父のそれとは大分違っているようで、想像がつかない。

けれど、星空はとてもやり手の社長なのだろう。海外に出張にいくくらいなのだから。

リビングのソファーに座らせていたクマを抱くと、星空の言葉通り、星空の寝室に入った。

朝は、ボンヤリとした視界だったから、どんな部屋なのか分からなかったが、今はメガネをかけているので部屋がよく見えた。

ブルーで統一された寝具類やカーテン。ごちゃごちゃと物はなく、とてもシンプルだ。

本当にいいのかななんて思いつつ、クマと共に、ベッドに潜り込んだ。

「…星空と同じ匂い」

目を閉じれば、星空が横にいて包んでくれてるような錯覚。いつもなら、中々眠れないのに、今夜は直ぐに深い眠りに付いた。

一人の夕食が寂しいときは、友人と外で食べて帰って来た。そして夜には必ずこのベッドで眠りに付いた。

毎晩眠っていたせいか、少しずつ、星空の匂いがなくなっていく。私は、星空とは違うシャンプーやボディーソープを使っていたから。

…。


「…星ちゃん。最近なんか、元気がないね?何かあった?」

久しぶりに中庭で光に会った。私は笑顔で首を降る。

「…そう?そういえば、東條星空とはどう?」

突然の質問に、ドキッとする。

「…どうと言われても、どうもなっていませんけど」
「…だよね」

光の言葉に首をかしげる。

「…だって、ずっと、海外に出張にいってるだろ?…もしかして、ずっと会えてないから、元気がないとか?」

…ズバリ言われ、笑顔がひきつった。
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