囚われた花嫁
「…星ちゃん。大丈夫?顔真っ青だよ?」

ホテルを出てすぐ、光が言った。

「…何でもないです。もう、帰りましょう」
「うん、帰ろうか」

マンションの近くまで送ってもらった私は、逃げるように、光の傍を離れた。

心配そうな顔で私を見ていたことなんて、気づかなかった。

…何をそんなに傷ついてるのか、何をこんなに動揺してるのか、分からないまま寝る支度を整えた私は、星空の寝室のドアの前で、立ち止まる。

…今夜、星空が帰ってくるかもしれない。そう思ったら、ここでは寝ちゃいけないと思った。

私は自分の部屋に入り、自分のベッドに潜り込んだ。相棒になってしまったクマをしっかりと抱き締めると、ぎゅっと目を瞑って、眠りに付いた。

…。

「…星はいつでも泣いてるな」

「…」

この声は、どこかで聞いたことのある声だ。

私は、ゆっくり目を開けた。

…ここは確かに、私の部屋だ。一人でこのベッドに入って眠りに付いた筈。相棒のクマは一体どこへ?

…まさか、クマが…星空になったのか?

回らない頭を、何とか回転させるもまだ、回りが悪い。

「…なんで泣いてた?怖い夢でも見たのか?」
「…なんで、このベッドにいるんですか?」

質問を質問で返した。

当然、星空は不機嫌な顔になる。

「…なぜ、向こうの部屋で寝なかった?」
「…ここが、私の場所だからです」

その言葉に、更に不機嫌になる星空。…不機嫌になる理由が、私にはわからない。星空には、あの、綺麗な女性がいるというのに。
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