囚われた花嫁
…朝、目が覚めた私は、 身支度しようと部屋をでると、星空と鉢合わせした。

「…おはようございます」
「…あぁ。星」

「…何ですか?」
「…今日は大学か?…何時に終わる?」

「…4時くらいには終わりますが、教授に用がありまして、帰りが少し遅くなりそうです」

本当は、教授に用なんてないが、そうでも言わなければ、光には、会えないと思った。

「…そうか」

それ以上何も言わず、もう、身支度のすんでる星空は、玄関に向かって歩き出す。

…!

そんな星空を、私は咄嗟に手を掴んで止めた。

「…どうした?」
「…ぃえ…特に用がある訳じゃ…」

困惑したまま呟くと、星空は何を思ったのか、私を自分の方に引き寄せた。

…とても優しく包み込むように、私を抱き締めた。

「…星空?」

顔だけを上に向けた私に…

触れるだけのキスをした。



放心状態の私から離れると、星空は家を出ていった。

…パタンと玄関のドアが閉まると同時に、ヘナヘナと、その場に座り込む。

…抱き締められたことは何度かある。

…でも、キスをされたのはこれが初めてのことだった。

このキスの意味は、私にはわからない。

でも、初めて触れた星空の唇は、とても暖かかった。

心の中まで温かくなった気がした。…好きの気持ちが自然と膨らんでいた。

好きだって言われた訳じゃない。

…光に何を言われても、この気持ちは消えないと思った。
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