彼女は期待しない
「こちらがお部屋になります」


スーツを着たホテル従業員に案内されたのは高層階の部屋。

大きな窓から下を覗けば眼下に立ち並ぶビル郡が見える。
昼間に見るとまったくもって味気ない。

しかし、日が沈めばそこから照らし出される光が夜を彩ってくれるのだろう。
夜景が見える部屋で恋人とラグジュアリーな時間を過ごす―女性なら一度は憧れるシチュエーションだ。

そんなホテルに私が昼間に来ている理由はただひとつ。
お仕事です。

今回の特集は「記念日に使いたいホテルBEST5」というもので、今日はホテルの取材をすることになっている。

私ひとりではない。同僚の高梨くんも一緒だ。
女性の目線だけでなく、男性側の意見も取り入れたいという意向から、二人での取材となっている。


「いいお部屋ですね。では早速質問に移りたいのですが」


私はメモを取り出して従業員に笑顔を向ける。


「ええ。なんでも聞いてください。紹介したいところはたくさんありますし、見回りながらお話いたしましょう」

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