彼女は期待しない
「そうね。どれもよかったけど、私個人としてはレストランが良かったわ。できれば夜景が見える窓側の席希望」


「なるほど。記念日にホテルのレストランって喜ばれそうだよね」


「サプライズでそういうところに連れていってもらえると嬉しいかもね。でも、ドレスコードがあるならさりげなく言ってほしいかな」


「ドレスコードか…。そこも気を付けないといけないな」


話を聞きながら、高梨くんは取り出したメモ用紙にペンを走らせた。

書き付けているのは、ホテル紹介の記事にあわせて載せる予定のお役立ち情報。

私と高梨くん、それぞれが感じた男女の意見を合わせたものを読者の特別な日に役立ててもらおうというものだ。

高梨くんの仕事に対する姿勢は好感が持てるし、好きだなって思う。

私もメモを取り出し、先ほどの取材内容を確認する。


「全部は予算の都合上行けないって人は、ディナーだけでもいいと思うわ」


「そうだね。どれかひとつでもいいかも。他には…」

それからしばらく意見の交換が続き、話がまとまる頃には珈琲はすっかり冷めてしまっていた。
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