不器用な彼氏
『暑いですよね、外。駅から歩いて来られたのかな?』
『はい…日傘…忘れちゃって、ずっと…歩いてきたから…』
少し呼吸を乱している様子で、途切れ途切れ話をしてくれる。
『結構、距離あるからね。』
そういうと、彼女は黙ってうなずき、おもむろに自分の両手を見つめる。
『?手、どうかした?』
『いえ、なんか手がしびれている感じがして…』
そういうと手のひらをグーパーして、感覚を思い出しているようだった。その様子を見て、いつだったか、テレビで見た熱中症の特徴に、そんな症状があったことを思い出し、もしや…と、思い慌てて、
『ちょっと、大丈夫!?何か、水分取った方が良いんじゃない?飲みものある?』
『いえ…でも、書類の確認が…』
真面目なのか天然なのか、自分の身体の異変より書類が気になる様子。
『そんなことより、とりあえず、早く何か飲んだ方が良いから!』
それでも、まだ何か言いたげな彼女に、無理やり自販機に向かわせる。
一番近くの自動販売機の場所を案内し、彼女が戻ってくるのを自分の席で待ちながら、“そういえば、私が買ってきてあげても良かったな…”と、自分の不親切さに少々反省していると、向かいに座っていた東君が、小声で話しかけてきた。