不器用な彼氏
『櫻木さんって、なんか可愛い~って、ごめんなさい。先輩に失礼ですね』
『いや…えっと…っていうか、実はそうなんだけど…』

このままだと、相手が誰かまで推測されそうで、ますます動揺が隠せない。でも、彼女の方が、そこは一枚も二枚も上手。

『相手が誰かなんて、聞かないですし、推測もしないので安心してくださいね』
『…どうしてわかったの?』
『簡単ですよ。だって、社外の方だったら、いるかいないかなんて答えても問題ないですし。答えに迷ったってことは、互いに内緒にする約束をしていたからで、逆に今日それを教えてくださったってことは、差し詰めその彼に、社内の他の男性陣に釘を刺すためにも、男がいることだけは言ってこいって言われた…って、ことですよね?』

ホームズも舌を巻く名推理に、関心しきり。
にっこりと微笑む彼女に『恐れ入りました』と、敗北を認めざる得ない。

『でも、ごめんね。社内に彼がいることは、まだ誰にも言わないでもらえるかな?』
『もちろん、そのつもりです。大人の恋愛のマナーですよね?』

最初のふわふわしていたイメージはどこへやら、まだ20代半ばの彼女の方が、ずっと大人に見える。
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