不器用な彼氏
彼が変わったというのは、あながち間違ってはいないのかもしれない。
最近の海成は、以前のような近寄りがたさが無くなった気がする。

職場のみんなが言うように、相変わらずの態度や言葉遣いなのだけれど、人を寄せ付けない透明なバリアが、解かれていっているような気がするのは、どうやら私だけが感じているわけではないようだ。

もちろん、私が変えたなんてことは、絶対にないとは思うけど…。

そして彼の変化は、職場を離れて二人で過ごす時間にも、明確に表れていた。

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『今から、海成の家に?』

その日は、久しぶりに映画でも観に行こうと、いつも通り大和の駅で待ち合わせて、できるだけ知り合いに会わないようにと、地元を離れ、都心まで出かける予定だった。

『嫌か?』
『別に嫌じゃないけど、昨日の電話では何も言ってなかったから…』

待ち合わせの場所に着いてすぐ、海成から“家に来ないか?”と誘われた。当然、一人暮らしじゃないのだから、自宅と言っても、年頃の女性には、いささか敷居が高すぎる。

私が躊躇していると、さすがに察したのか、

『ああ親父たちなら、今、海外行ってて、家にはいねぇから』
『海外?』
『そ、ハワイな。お気楽にフルムーン旅行だとか言ってたな』
『素敵…仲良いんだね』
『…で、どうする?』

ご両親がいないとわかると、逆にいない間に家に入り込むのは、マナー違反のような気がするし、それより何より、自宅に二人きりとかって…。

思わずよからぬ想像が頭をよぎり、頬を赤らめると

『おい、妙な想像すんな』

頭を小突かれる。
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