不器用な彼氏
通された、広いリビングダイニングは、おそらく近年リフォームしたのだろう。和テイストと言うより、明るい色のフローリングの床に、システムキッチンが完備された、近代的なスペース。

庭に面したガラス窓の向こう側には、お母さんが手厚く手入れを欠かさないという、ガーデニングの鮮やかな色彩が広がり、まるで洋館の一室のよう。

『麦茶でいいか?』
『あ、うん。何でもいいよ』

キッチンに入り、私のために麦茶を入れてくれる。

大きな身体で、冷蔵庫から麦茶の入ったガラスの容器を取り出し、水切りかごに入れてあったコーヒーカップに注いだかと思ったら、途中でやめ、冷蔵庫の横にある擦りガラスの食器棚から、透明のグラスを取り出して、丁寧にそこに入れなおす。

その一連の行動に、思わずクスリと笑ってしまうと、すかさず彼に睨みつけられる。

『何だよ』
『ううん。育ちの良さが、にじみ出てるなぁ~って』
『言ってろ、バカ』

乱暴に差し出されたグラスの下に、さりげなく置かれた黄色のコースターを見て、また笑ってしまう。こんな姿、職場の女性陣が知ったら、さぞ目を丸くするだろう。

『お姉さん、遅いね』
『人を待たせておいて、どこまで買い物行ってんだか』
『あ、そうだ!そういえば、来週の行くとこ、何か考えた?』
『ああ、情報誌買って、少しな』

宿泊先は、既に熱海市内のホテルを予約しているのだけど、日中遊びに行く場所は、まだ決めていなかったので、今日は、それも決めなくては…と思っていた。

しかし、あのめんどくさがりの海成が、わざわざ旅先の情報誌まで買ってくれているなんて、意外と楽しみにしてくれているのかな?って、嬉しくなる。

『見るか?』と聞かれ、即座に、“見たい”というと、自室から取ってくるから、ちょっと待ってろと言われる。
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