不器用な彼氏
『私も行っていい?』
『は?』
『海成の部屋、見てみたい』
『別に面白いもん無ぇぞ。しかも、クーラー効かねぇからマジ暑いし』
『ちょっと見るだけよ、ね?』

少し強引にお願いすると、半ば呆れたため息をつかれ、無言でついてくるように促される。

リビングを出て、入ってきた玄関フロアまで出ると、吹き抜け部分に作られている木製の階段を、2階にあがる。上がった先の廊下には、いくつかの扉があり、右手前がお姉さん、奥が海成の部屋だと教えてくれた。

1階同様、庭に面した側の窓からの採光で、廊下は柔らかい光に包まれる。海成の部屋は、ちょうど、さっきまでいたリビングの真上の位置にあたり、先に彼が扉を開けて、中に入る。

慣れた手つきで、入り口の扉は開けっ放しにし、廊下の窓と、部屋の中の窓を開けて『この方が風が通るから』と、エアコンは付けず、ベットの脇にある扇風機のスイッチを押す。

『ホントだ。風が抜けて涼しい』
『これこそエコだろ?』
『確かに、エコね』
『本、見るなら、その辺座ってろ』

6畳ほどの部屋は、至ってシンプル。

シングルのベットと、物書き用の机とテレビがあるだけで、あまりごちゃごちゃと物は置かれていない。

そういえば、職場の彼の机も、男性のわりには、きちんと片付けられていて、潔癖ではないものの、整理整頓は出来ている。

とりあえず、ベットの端に座り、海成が自分の机の上の情報誌を手に取る間、何気に下をのぞき込む。

『…オイ、中坊じゃないんだから、ヤバイ本なんか無ぇぞ』
『なんだ、つまらない』
『ほら』

【熱海·伊豆】と大きく書かれた旅の情報誌を、手渡される。見れば、いくつかの付箋が挟まれていて、ひとしきりチェックしてくれたのが分かる。

『探してくれたんだね』
『お前が、行きたがりそうなとこだけな』

照れ隠しか、つっけんどんに言い、隣に座る。

いくつか付箋の付いてるページをチェックしていると、“恋人と絶対行きたいスポット”のページにも、付箋が貼ってあって、思わずにんまりしてしまう。

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