不器用な彼氏
嘘でしょう?もちろん、今更そういう関係になるのに、拒む理由は全くないし、少なくとも来週末の旅行では、当然それも覚悟の上で…。

そう考えている、私の心を読んだのか、

『一週早いが、問題ないだろ』
『お、お姉さん、お姉さんが、もう帰ってくるでしょ?』
『フッ、お前、それ信じたの?』
『…?』

そう言うと、手首を抑えていない手で、私の額の髪を払い、もう一度深いキスをする。

確かに、もう30を過ぎて、子供みたいな抵抗など、してはいけないことだということは、充分わかってる。そもそもこうなる機会がなかったとはいえ、半年以上も我慢させていたのだとしたら、彼女としては、失格なのかもしれない。

仕方なく観念したように、抵抗する力を抜くと、ゆっくり離れた唇は、そのまま今度は、同じ柔らかさで、直接首筋に落とされる。

『ん…』

その甘い疼きに、思わず出そうになる声を我慢する。

まだ明るい部屋の中で、羞恥と、いくらかの怖さと闘いながら、なぜか込み上げてきそうになる涙を必死に堪えていると、開け放たれた扉の向こう側にある廊下の窓から、車のエンジン音が聞こえてきた。

『チッ』
『?』
『姉貴が帰って来やがった。ほら、起きろ』

訳もわからず、手を引かれ、ベットから起き上がると、涙目の私を見て

『なんて顔してんだ?そんなんで来週どうする?』
『…冗談…だったの?』
『当たり前だろ、こんなとこで、抱けるわけ無ぇ』

ホッとしたのと同時に、あまりの行動にムッとして『ひどいよ』と睨みつけると、

『俺は、謝らねぇからな。先に煽ったのは、お前だろう?』
『う…』
『むしろ、よく耐えたと褒めてほしいぐらいだ』

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