不器用な彼氏
確かに、渋る海成に我儘言って、この部屋に入ったのは、私にも多少、邪な気持ちはあったのは事実。煽ったつもりは毛頭ないが、そう受け取られても仕方ない。

…と、外から聞こえていた、車のエンジンが止まった。

『後から来い』
『あ、待って、私も一緒に…』
『バカ、そのカッコで来たら、姉貴の思う壺だ』

言われて、部屋の入り口近くにあった、スタンド鏡に映った自分の姿を確認し、赤面する。
少し乱れた髪と、いつの間に外されたのか、胸のブラウスのボタンが上から3つも外れてる。

『先に言っとくが、次は途中で引き返せねぇからな…覚悟しとけ』

海成は、そういうと、私を部屋に残して、階下の玄関フロアに向かう。ほどなくして、鍵を開ける音の後に、玄関の開く音がして、

『海!いるんでしょう?荷物取りに来て!』

お姉さんの声が、聞こえてくる。

『そんな大声出さなくたって、聞こえてるよ』
『あら、あんた2階にいたの?彼女は?』
『今、降りてくるだろ』
『あ、もしかして、お楽しみ中だったとか?』
『アホか。つーか、散々待たせといて、何言ってる』

階段を下りる彼の足音と、玄関先での姉弟の会話を聞きながら、急いで身づくろいをする。

『アハハハ…ごめん、ごめん。ちょっと道が混んでてね』
『だいたい何だ、その荷物は』
『今夜、鍋しようと思ってさ』
『鍋?今、真夏だぞ』
『別に良いじゃない?クーラーガンガン利かせて、キムチ鍋食べよう!』
< 111 / 266 >

この作品をシェア

pagetop