不器用な彼氏
玄関を出て、駐車場に停まるお姉さんのアクセラの助手席を開け、車に乗り込む。先にエンジンをかけて待っていた海成は、案の定、不機嫌極まりない顔をしてる。

『待たせて、ごめんね』
『…姉貴と何、話してたんだ?』

シートベルトを締めると、それを待っていたように、車が走り出す。

『知りたい?』
『別に。興味無ぇ』
『ホントは、知りたいくせに』
『殺すぞ』
『そんなこと言ったって、もう怖くないし』
『チッ…』

前を向いて運転する海成が、イラッとしているのが、手に取るように分かり“何か、可愛い”と思ってしまう。

『お姉さんにね、言われたちゃった』
『……』
『海成に愛されてるのねって』
『はぁ?』
『そうなの?』
『あのバカ…何、言ってんだ』
『ふふふ』

動揺する海成に、思わずにやけていると、ハンドルを持っていない左手で、私の右頬を軽くつねる。

『気持ち悪い笑い方やめろ』

車内は暗いが、真っ直ぐ前を見ている海成の頬が、真っ赤になっているのが、わかる。そんな海成を見たら、お姉さんの言ってたことは、案外当たってるのかもしれないと思い、頬の緩みはなかなか治まらなかった。
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