不器用な彼氏
『わかっていると思うが、行ったらもう逃げられねぇぞ』
『うん』
『嫌だと言っても、手放す気はねぇから』
『わかってる』
『もし覚悟できてねぇなら…』
『出来てるよ』
『は?』
『もう、とっくに覚悟なんて決まってる』

びっくりしたような顔で私を見る海成を、ジッと見つめ返す。

『今日は、その…ごめんなさい。予想外の展開に動揺しちゃった…でも、正直言うと、実は私も限界…かも』
『?…お前、何言って…』
『今日だって、ホントは海成に触れてほしくて、部屋に行ったの。いい歳して、あきれちゃうでしょう?…だって』

恥ずかしさで、スカートの裾をギュッと掴むと

『海成に対するこの気持ち、もう言葉だけじゃうまく伝えられなくて……どうしたらいいのか分からなくなる。だから…』

ふいに、海成の大きな手が、スカートを握りしめる私の手をそっと包み込む。

『海…』
『わりぃ、もう充分だ』

思いのほか緊張していたのか、気が付くと頬を涙が伝っていた。

『あれ?なんで私、泣いてるんだろう?』
『アホか、泣くとこじゃないだろう?』

海成を見ると、初めてみるような柔らかい笑みを浮かべて私を見ている。

『今更、中止は無しだな』

見つめ合う瞳の奥で、もう一度、暗黙の了解を求められ、私は黙ってうなずいた。

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