不器用な彼氏

第13話 不器用な男（海成side）

【不器用な男（海成ｓｉｄｅ）】

『ったく遅ぇ』

７月の最後の金曜日。

学生達が夏休みに入り、通学のためのヤツらが極端に少ないために、通常だと混雑する時間帯であるにも関わらず、駅は比較的すいていた。

俺は、いつものごとく、待ち合わせ時間の30分も前に到着していたが、相変わらずアイツはまだ来ない。

お互い部が分かれたこともあり、同じ日に休暇を取っても、怪しまれることもないだろうと、共に今日、休暇を取り、一泊二日の旅行に出かける。

女と旅行するなど、初めてかもしれない。もっとも、今までのように長くてひと月の付き合いでは、そんな話に、なるはずもなかったが。

誘ったのは、紛れもなく俺からだ。

別に旅行が趣味なわけでも、行きたい場所があったわけでも無い。いや、今更かっこつけてもしょうがねぇ。

俺は、アイツとの距離を縮めるための口実が欲しかった。

“今夜、俺はアイツ（菜緒）をこの手で抱く”