不器用な彼氏
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去年の5月の定期異動、自分のトレーナーだった先輩TMが異動し、その代わりに、アイツが異動してきた。
社内でも貴重な女性の技術系社員が来ると、課内は当時、騒然としたものだ。
しかも、年齢はどうやら俺と同じく30代。
上の人間も、即戦力として使える年齢なだけに、期待しているようだった。
ほどなくして、その本人自ら、莫大な知識と決断力が求められ、一般人から業者までいろんな人間を相手に、接客をしなければならない、このTMを、志願しているという噂が流れた。
正直《女》というだけで、面倒だと思ったが、その上、TMに志願するなど、余程のバカか、どんな自信家のキャリアウーマンが来るのかと、嫌な予感しかしなかった。
幸い、同僚の東が、前からの知り合いだとかで、教育係を買って出てくれたおかげで、取りあえず一番の面倒は東に押し付けることができたが、結局のところ、同じ南部エリアを受け持つことになることには変わりないのだから、足手まといになる奴だけは困る。
『…櫻木です。よろしくお願いします』
第一印象は、想像していたバリバリのキャリアウーマンでも、自信家でもなかった。
もっと言えば、取り立てて美人でも可愛くもない上に、少しぽっちゃりした体形が女性的な柔和な印象を醸し出しているだけの、ごくごく普通の女だった。
先に言っておくが、当然、俺の好むタイプの女では、全くない。
最初は、こんな普通な女が、無理やりやらされた俺だって相当苦労した“TM(=トータルマネージメント)”の仕事が、まともにできるはずなどないだろうと、タカをくくっていた。
実際に、この仕事に就いて一年も待たずに降りた人間を、俺自身、何人も見てきたのだから。