不器用な彼氏

『良し!完璧とは言えないけど、取りあえず大丈夫でしょう!』

彼女がここに来てから、既に1時間半近く経っていた。
彼女自身もホッとしたようで、安堵の表情。顔色もだいぶ良くなってきたようだ。

帰り支度をし始める彼女に

『まだ外、暑いみたいだけど大丈夫かな?』
『ハイ、なるべく日陰を歩くようにして帰ります』

···と、ずっと持っていた保冷材を差し出され『あの、これどうしましょう?』と彼女。
進藤さんの席を見ると、ちょうど離席中のようだ。

『返さなくて良いって言ってたから、持って帰ってもいいんじゃない?』
『じゃ、これだけでもお返しします』

そう言うと、保冷剤を包んでいたハンカチを渡される。

グレーというよりもブラックに近い色で、いかにも進藤さんっぽいカラー。
彼女はもう一度私に頭を下げて、お礼の言葉を言うと、

『これくださった方にも、ありがとうございましたと、お伝えてください』

そう言葉を添えて、退社していく。

入り口の二重ガラス扉を開けて、まだ暑そうな残暑厳しい通りを歩いていく。彼女の細い後姿を見送りながら、

“進藤さんも、ああいうか弱い女性がタイプなのかな?”

なぜか少しショックを受けてる自分に気づき、おもわず苦笑する。

進藤さんの好きな女性のタイプなんて、興味なんてないはずなのに···。

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