不器用な彼氏
『帰ったのか?』
いつの間にいたのか、隣に進藤さんが立ち、同じように彼女の姿を見送っていた。
『あ、これ、彼女から預かりました。お礼も言ってましたよ』
そういうと預かったハンカチを手渡す。
『ああ、別にこれも返さなくても良かったのに』
独り言のようにつぶやく。
『…優しいんですね』
思わず口にすると、途端に怪訝な顔になり
『なんだそれ。普通だろ』
と一言。お節介だとは思ったけれど、いつもお世話になっている進藤さんの為に、ここは一肌脱ごうと、『業者さんの名前教えましょうか?』と申し出ると
『は?誰の?』
なぜか不快極まりないという顔で、凄まれる。
『いや、さっきの女性の…』
『何で?』
と、さらに凄まれる。
『何でって…』
次の言葉がうまく出てこないので困っていると、
『くだらねぇこと言ってないで、仕事しろ』
そういうと、さっさと自分の机に戻ってしまう。
何だ…彼女のことが気に入ったんじゃなくて、具合の悪かった人を純粋に助けただけだったんだ。そう思うと、なんだかほっこりした気持ちになる。…と同時に、なぜかホッとしている自分がいて、ますます意味が分からず動揺してしまう。
そして、その気持ちの源を考える前に
『櫻木さん、お客様から2番に電話は入ってます』
受付の諏訪ちゃんに呼ばれ、現実に引き戻されて、それ以上考えるのはやめてしまった。