不器用な彼氏
家からアイツの自宅までは、途中工事渋滞に捕まり、40分以上かかってしまった。

アイツの自宅の周りは、住宅街と言っても家が疎らにしかなく、閑散としていて人通りも少ないので、家の門が見える通りに、車を停めることにした。

車を降りて、運転席側まで回り込み、お礼を言うアイツを車内から見つめ、ずっと気になっていた質問を投げかけた。

『来週…いいんだな?』
『来週?』

アイツはとぼけているのか、一瞬何のことを言われているのかわからない様子だったが、すぐ思い出したようで『忘れるわけないでしょう?』と呑気に笑う。

俺は続けて、アイツにいくつかの確認と、先に進む“覚悟ができているのか?”と問うた。
アイツは『とっくに覚悟なんて決まってる』と即座に答える。

更に、俺の問いかけの元が、今日の俺の部屋での出来事だと察すると、その時の心情を隠さずに教えてくれた。

驚くことに、アイツの口からも“限界”という言葉が漏れた。俺の前で、スカートを握りしめ、羞恥に耐えるように、『もう言葉だけじゃうまく伝えられないから』と苦しそうに訴える。

俺に伝えたい一心なのだろう。

必死に自分の気持ちを話してくれているようで、女であるアイツが、こんなことを口にするのはどんなに勇気がいるだろうと思うと、その痛々しさに、愛おしさが増す。

もういいから…と、思わずアイツの手を握り、言葉を遮ると、アイツの目から、涙がこぼれた。

余程、緊張していたのだろう。言わせた俺が悪かったと、反省する。

…もう、大丈夫だ。
俺たちの気持ちは、同じ方向に向いているのだと、確証が持てた。
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