不器用な彼氏
車は、5分ほど歩いた時間貸しパーキングに、止まっていた。
お姉さんの愛車であるアクセラは、真っ赤なボディがピカピカに磨かれて、他車の中で威光を放っている。

『お姉さん、わざわざ洗車してくれたのかな?』
『…洗車だけなら、感謝なんだけどな』
『?どういう意味?』
『まぁ乗れよ』

海成は、深いため息交じりにそう言うと、持っていた旅行鞄を車のトランクに乗せ、車体が熱くなっているからなのか、助手席のドアを開けてくれる。こういうさりげない行動が、キチンと女性扱いしてくれているようで、嬉しくなる。

海成はエンジンをかけてから、一旦パーキングの支払いに行き、私は、車に乗り込みながら、車内を一通り見まわして、海成の言ったセリフの意味を知った。

車の中は、先週送ってくれた時に乗った時と明らかに違っていて、やたらとハートのデコレートや可愛らしい小物が増えている。

前のダッシュボードの上などは、お姉さんの好きそうな海をイメージにしたガラス細工と一緒に、可愛い男女の人形が、揺れるたびにキスをする置物が置かれていた。

シートベルトをするためにベルトを伸ばすと、そこにも、ご丁寧にハートの羽を付けた可愛らしい天使が着いて、どうやら、お姉さんのサプライズ演出なのだろう。

いわゆる“恋人仕様”なのかもしれない。

清算を終えた海成が戻ってくると、『凄いね』と声をかけた。

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