不器用な彼氏
『今夜の花火、何時からだ?』

海成に問われ、『確か8時だったよ』と答えると、腕時計で時刻を確認する。

『少し早いが、そろそろ出るか』
『ここからどれくらいかな?』
『道が混んでいなければ、1時間もかからない。早めに着いて、先ずは風呂入ってから飯食いてぇし』

風呂好きな海成らしい。新しい社屋にも、現場作業者用に、小さな湯船がある個室のお風呂がいくつかあるのだけど、内勤にも関わらず、業務が終わると、必ずといっていいほど、入って帰ってる。

しかも、あの大きな身体で小さな湯船に浸かり、溢れ出た湯が廊下まで流れ出てしまった事件は、記憶に新しい。

なんとなく職場のことを思い出し

『みんな、まだ仕事中だね』
『ああ』
『私達、噂になってたりして』
『…なわけねぇだろ。俺とお前だぞ』

去年、一緒の課にいたというだけで、全く接点のない私達。

しかも、職場では会話らしい会話もなかったのだから、噂になりようがなかった。
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