不器用な彼氏
『入口で突っ立ってないで、中、入ってこい』

先に入り、正面の窓辺に立つ海成に声をかけられて、ハッと我に返る。
あまりにも贅沢すぎるお部屋に、一瞬、足がすくんでしまった。

『いや…なんか凄い部屋だなって…』
『まあな、適当に宿を予約した俺も、ちょっと驚いてる…ってか、それより、こっち来て見てみろ』

言われて、板張りの廊下をまっすぐ進み、左手の琉球畳が使われている6畳ほどの和室を抜け、その先に広がる、センスの良い小さなテーブルと二人掛けのソァが置いてあるあたりに立つ海成の近くまで行くと、彼の視線の先を追う。

それは、入口から見えた障子襖のその先に注がれていた。

『わぁ…』

一目して、思わず、感嘆の声が漏れてしまった。

いわゆる関西地方などに多い、縦繁障子という襖で仕切られていた先は、入り口から続く、板張りの床の位置から、3段ほど下がった場所に広がる8畳ほどの小部屋になっていて、贅沢にもキングサイズらしきベットが一つ、ゆったりと、置かれている。

もちろん、天井の高さは上段と同じなのだから、その分部屋の広さはより広く感じ、海側に面した壁には、上段と同じ高さで窓枠が続いていて、通常より高い位置にある為に、おそらくベットからは、遮る物のない空が広がって見えるのだろうと思われた。
< 174 / 266 >

この作品をシェア

pagetop