不器用な彼氏
『素敵…』
『“星降りの間”って、こういうことか』
『…ねえ、この部屋…高かったでしょう?』
『値段のことは言うな。今回は…特別だろ?』

そういう海成が、意味ありげな視線を投げかけてくる。

心臓がトクンと波打った。さっきこの部屋に入ってから、ずっと落ち着かない心臓の音。
急に現実が押し寄せてきて、海成の向こう側に見える、寝室のベットが、やけに生々しく感じてしまう。

『と、とりあえず、お茶でも飲もうか?』

7月の、まだ明るいこの時間に、あらぬ想像してしまった自分の邪念を払うように、努めて明るく声をかけて、お茶菓子の置かれている、和室のほうに向かおうとすると、軽く右手を取られる。

『なんだよ、せっかく二人っきりになったのに、つれねぇな?』
『…別にそういうわけじゃ…』
『この前みたいに、お前から、してくれてもいいんだぞ?』

にやりと笑うその顔は、先週、海成に送ってもらった時に、私からしたキスのことを言っているようだった。

正直、頬に軽くしただけのキスなので、一瞬、あの程度で良ければ…とも思ったが、いくら二人きりだといっても、さすがに照れくさい。
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