不器用な彼氏
店員さんが、ちょうどお鍋の固形燃料に火を点けに来たので、ついでにウーロン茶を1杯注文する。
実はアルコールがあまり得意でない私。今日はあまり酔わないように、ビールは1杯でやめておく。

メインのお料理は、金目鯛のしゃぶしゃぶ。ごはんも鮭の釜めしで、まさに海の幸、満載。
どれもこれも絶品で、上品だと言いながら、海成も舌鼓を打つ。

彼には物足りないかな?と思っていた食事の量も充分で、デザートのゆずシャーベットを食べる頃には、『もう食えねぇ』と、満腹のようだった。

さっぱりとした舌触りのシャーベットを口に入れると、ふわりと香るゆずの香り。
前では、中指と親指でグラスを持ち、最後の一口を飲み干す海成。

カラのグラスを手に、こちらを見てフッと、笑う。

『何?』
『いや、お前、よく逃げなかったな…と思ってな』
『逃げる?何から?』
『…俺から』

二口目のシャーベットを口に入れようとして、しばし固まる。

『…何で、そう思うのよ?』
『さっき、ちょっとふざけ過ぎたからな』
『…あれ、ふざけてたの?』

睨みつけると、その問いには答えずに、意地悪そうに笑う。

『まあ、今更逃げても、無駄だ。すぐ追いかける』
『怖ッ、ストーカーよ、それ』
『かもな?』

冗談なのか本気なのか、わからない笑みを見せる。

すべてを受け止める気持ちは、もう揺るぎようがないけれど、いろんな意味で怖気づいてるのは事実。
もしかしたら、海成も同じ気持ちなのかもしれない、とも思う。

ああやって、私を試すようなことをして、どこまで許されるのか、探っているのかもしれない。
結局、私達は不器用なもの同士、お互い様なのだ…。

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