不器用な彼氏
気になって、身長よりもいくらか高いロッカーの列の奥から3列目、声のする場所を覗き込むと、20代前半だろうか?若い女性が、やはり自前のものらしき浴衣を着て、帯の結びと格闘している。

私も海成の性格が移ったのかも知れない。
余計なお世話かもしれないが、放っておけずに、声をかけた。

『…良かったら、帯、結びましょうか?』

いきなり声をかけられ、びっくりしたような顔をされたけれど、次の瞬間、ホッとしたような、それでいて泣きそうな顔で『ホンマにええの?』と喜びの声を上げる。

聞けば、やっぱり自分の浴衣を持ってきたのは良いけれど、帯の結び方がわからず、どうしたらいいのか途方にくれていたらしい。

『いや、ホンマ、お姉さん、救世主やわ』
『大げさよ。多分、宿の方にお願いすれば、やってもらえるし』
『あ、そうやな。そんな手もあったわ』

日に焼けた肌に良く映える、若者らしいピンク地に白いマーガレットが華やかな浴衣で、緑の帯が葉の部分を模しているようだった。明るめの髪はアップし、上手に二つのお団子が出来ている。

彼女の羨ましいほどに細いウエストに、一枚フェイスタオルを巻き、先ほど自分に施したように、帯を結んでいく。チラリと時計を見ると、時刻は20分過ぎ。まだ時間は充分ある。

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