不器用な彼氏
ストレートな長い黒髪をひとつにまとめ、カフェエプロンをしているところを見ると、おそらく地元の方のようだった。

『理香子…か？』

つぶやくと同時に、繋いでいた手が、ほどけた。

それは、偶然なのか、意図的に離したのかはわからなかったけれど、少なからずポーカーフェイスの彼が珍しく動揺しているのは、伝わってきた。

ただ、それも一瞬で、次の瞬間、彼女の方が満面の笑みで近づいてきて、『元気だった？』と、声をかけられると、いつも通りの顔で『ああ』と、一言。

『十年ぶりくらい…かしら？』
『そうだな』
『すっかり大人になっちゃって』
『お前も…老けたな？』
『もう！その毒舌変わってないわね』

私を他所に、懐かしむ会話をする二人。
でも、なぜだろう？この違和感と胸のざわつきは…。

彼女は私に気が付くと『あ…彼女さんかな？』と聞いてくる。
急にふられ、咄嗟に受け答えが出来ずにいると、海成が『まあな』と答えたので、一応ペコリと頭を下げる。

『そう、海成の彼女だなんて、大変ね』
『どういう意味だよ』

何気ない会話の中に、過去にそれを経験してきたのではないか？と思われるニュアンスを感じ取る。
同時に、先週海成のお姉さんに聞いた、“海成が名前の呼び捨てを許したもう一人の女”の話が、頭をよぎる。

“もしかして、この人が…？”

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