不器用な彼氏
遠くで雷鳴がかすかに聞こえ、徐々にその音が近づいているような気がするのは、気のせいではないだろう。少し離れた場所では、ASの社員が何やら右往左往している様子。

ところどころ聞こえてくる会話では、建設途中の現場から、看板等が飛ばないよう補強するようにと、行政からの指導があったようだ。

隣の窓からは、ひきりなしに、叩き付けるような雨音が続き、徐々に大きくなる雷鳴に反応するようにガタガタと音をたてている。

数年前に起きた東日本大震災で、当時既に老朽化が進んでいたこの建屋が、良く持ちこたえたと言われただけあって、少し見渡せば、壁や天井には、その時できたのであろういくつかの亀裂が入っていて、痛々しい。

窓際の壁に至っては、亀裂のいくつかに水がしみ込んだような形跡があり、“もしやこのまま崩れるんじゃ…”と不安になる。

ドロドロドロ…明らかに近づく雷鳴が、不安を掻き立てる。

『オイオイ年明けの新社ビル引っ越しまで、この建物もつのかよ』

誰かのつぶやきが、底冷えのしてきたフロアに落とされた。

”ピカッ”

『!!』

瞬間的に外が明るく光ったと思ったら、数秒で大きな雷鳴が轟く。
…と、執務内の照明がパッと落ちて、すぐ復活した。

あれ?今、照明が一瞬消えたような…?
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