不器用な彼氏
雑踏の人の群れを縫いながら、消えていく彼女の細く綺麗な後姿を見送りながら、どうしようもなく焦燥感に駆られる。
旅先で偶然懐かしい人に会った…それだけの話なのに、なぜこんなにも胸がざわつくのだろう。
例えそれが、過去に海成と関係のあった女性だったとしても、今の私達には全く関係ないのに…。
しばし彼女の去った雑踏を見つめながら、頭の中で、先程の彼女の姿が焼き付いて離れず、呆然と立ち尽くしていた。
『オイッ』
『え?ああ、ごめん、何の話だっけ?』
振り返ると、海成が何か話しかけていたようで、返事のない私に、大きなため息を吐く。
『…宿、戻るぞって言っただけだ』
『あ…うん』
『……』
砂浜は、片づけをする地域の方や、宿や家路に帰る人達が行き交い、未だ混雑している。
海成は何か言いたそうに一度口を開きかけたけれど、結局何も言わず、さっきと同じように、私の手を取り歩き出そうとするが、咄嗟に、その触れた手を離し、引っ込めてしまう。
瞬間、驚いた顔の海成。
『えっと、大丈夫。もう、この草履、慣れたし、一人で平気だから』
『……本当か?』
『うん、ありがとね』
変な言い方にならないように、取り立てて自然な笑顔で話した。
海成はしばしの沈黙の後、ため息と共に『気を付けて歩け』と言うと、ゆっくり先を歩き始める。
旅先で偶然懐かしい人に会った…それだけの話なのに、なぜこんなにも胸がざわつくのだろう。
例えそれが、過去に海成と関係のあった女性だったとしても、今の私達には全く関係ないのに…。
しばし彼女の去った雑踏を見つめながら、頭の中で、先程の彼女の姿が焼き付いて離れず、呆然と立ち尽くしていた。
『オイッ』
『え?ああ、ごめん、何の話だっけ?』
振り返ると、海成が何か話しかけていたようで、返事のない私に、大きなため息を吐く。
『…宿、戻るぞって言っただけだ』
『あ…うん』
『……』
砂浜は、片づけをする地域の方や、宿や家路に帰る人達が行き交い、未だ混雑している。
海成は何か言いたそうに一度口を開きかけたけれど、結局何も言わず、さっきと同じように、私の手を取り歩き出そうとするが、咄嗟に、その触れた手を離し、引っ込めてしまう。
瞬間、驚いた顔の海成。
『えっと、大丈夫。もう、この草履、慣れたし、一人で平気だから』
『……本当か?』
『うん、ありがとね』
変な言い方にならないように、取り立てて自然な笑顔で話した。
海成はしばしの沈黙の後、ため息と共に『気を付けて歩け』と言うと、ゆっくり先を歩き始める。