不器用な彼氏
海岸から、車道を渡り、行きとは逆に、宿に続く階段をゆっくりと上る。
手は繋がれていないけれど、やっぱり歩調を合わせてくれているようで、歩きやすい。
階段沿いに設置してある木製の手すりにつかまり、浴衣の裾を気にしながら、慎重に歩を進める。
途中、後ろを振り返ると、人が疎らになった砂浜では、羽目を外した若者と警官が、小競り合いをしているのが見えた。よくある祭りの後の風景。
つい先ほど見た、華やかな花火は、既に幻影でしかない。
前を歩く広い背中を見つめながら、このまま先程の彼女について、触れずにいることに堪えきれなくなり、出来るだけ自然に口に出す。
『…さっきの女性、すごく綺麗だったね?』
一瞬の間があったが、そのまま振り向きもせずに、抑揚のない声が返ってきた。
『…そうか?俺らより5つも上のババアだぞ』
『本当?全然見えなかったよ…今流行りの“美魔女”だね』
『フッ…どうだかな…』
そこでまた会話は途切れ、次に発する言葉が見当たらず黙ってしまうと、気まずい空気が流れだす直前、海成が沈黙を破る。
『…まだ俺が学生だった頃、姉貴の大学の先輩だった理香子の実家で、バイトすることになった。まぁ当然自分の家だからな。アイツも店手伝ってたし、よく顔合わせてた』
『そう…なんだ』
『で、当時の俺らは、お前が察してるように、自然とそういう関係になった』
海成の口から、淡々と、でもハッキリと、事実が伝えられた。
もしかしたら…という疑問が確信に代わり、同時に、複雑な感情が入り乱れる。
手は繋がれていないけれど、やっぱり歩調を合わせてくれているようで、歩きやすい。
階段沿いに設置してある木製の手すりにつかまり、浴衣の裾を気にしながら、慎重に歩を進める。
途中、後ろを振り返ると、人が疎らになった砂浜では、羽目を外した若者と警官が、小競り合いをしているのが見えた。よくある祭りの後の風景。
つい先ほど見た、華やかな花火は、既に幻影でしかない。
前を歩く広い背中を見つめながら、このまま先程の彼女について、触れずにいることに堪えきれなくなり、出来るだけ自然に口に出す。
『…さっきの女性、すごく綺麗だったね?』
一瞬の間があったが、そのまま振り向きもせずに、抑揚のない声が返ってきた。
『…そうか?俺らより5つも上のババアだぞ』
『本当?全然見えなかったよ…今流行りの“美魔女”だね』
『フッ…どうだかな…』
そこでまた会話は途切れ、次に発する言葉が見当たらず黙ってしまうと、気まずい空気が流れだす直前、海成が沈黙を破る。
『…まだ俺が学生だった頃、姉貴の大学の先輩だった理香子の実家で、バイトすることになった。まぁ当然自分の家だからな。アイツも店手伝ってたし、よく顔合わせてた』
『そう…なんだ』
『で、当時の俺らは、お前が察してるように、自然とそういう関係になった』
海成の口から、淡々と、でもハッキリと、事実が伝えられた。
もしかしたら…という疑問が確信に代わり、同時に、複雑な感情が入り乱れる。