不器用な彼氏
意を決し、持っていたペットボトルを、サイドボードに置くと、一歩、二歩…歩を進め、海成の座るソファの隣に、そっと座る。

ほんの一瞬、ホッとした表情を見せたかと思うと、少し距離を開けて座った私の肩を、大きな左手で強引に抱き寄せ、右手で顎を掬うと、存外性急に唇を奪われる。

『…ッ!』

夕方にされたキスと違い、いきなりの深いキスに戸惑う。

海成の浴衣の胸元を掴むと、肩を抱かれたまま、ゆっくりと傾き、ソファサイドにあった、少し大きめのベージュのクッションに身体ごと落とされる。

同時に離れた口づけ。

少し苦しかったので、思わず安堵して大きく息をする。
目の前では、すまなそうに目を逸らす海成。

『悪い、ちょっと余裕ねえな、俺』

珍しく反省する海成に、何故か、きゅんと胸が締め付けられる。

私も余裕がないのかもしれない。
今は、何も考えず、強引にでも海成と一つになりたかった。

手を延ばし、海成の顔に触れると、驚く海成を無視して、自分の唇へと引き寄せる。

突然の行動に、口づけた瞬間は戸惑っているようだった海成も、時間の経過と共に深くなる口づけに、いつの間にか、没頭し始める。

ゆっくりと甘いキスが続く途中、何故か不意に彼女を思い出す。

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