不器用な彼氏
7月の最後の金曜日。
まだ夏の盛りだけれど、山から海岸に吹く風は少し冷たく、上に羽織る丹前でも持ってくればよかったと後悔するも、今更仕方ない。

少し広めに余裕のある造りの歩道の、海岸側をゆっくり歩きながら、想いを巡らす。

…海成は、どうしているだろうか?

いきなり泣いて、いきなり飛び出して…呆れられて当然だ。
あんなにも真っすぐに、自分を求めてくれた海成に、酷いことをしたという、自覚はある。

結局のところ、私は、海成の一番になりたかったのかもしれない。
今、この現実も含めて、過去も、そしてこの先の未来も、海成の出会った女性の中で、一番の寵愛を望んだのだ。

それは、至極傲慢で、自分勝手な我儘に過ぎないことは、充分わかってる。

少なくとも、これから先の未来は、自分の努力次第で、変えることができたとしても、自分の知りえない過去は、どうにも変えることなど、出来ないに決まってるのに…。

いつから、こんな独占欲の塊のような女になったんだろう?
しかもこんな、聞き分けのない子供みたいな我儘。

我ながら自分が嫌になり、大きなため息を一つ落とす。

少し開けた場所に出て、不意に立ち止まり、右手下に広がる砂浜を、一段上の歩道から眺め、寄せては引いていく波の音を聞きながら、また深くため息を吐く。

夜風が、浴衣の袖から出ている素肌をかすめ、肌寒さを感じ、そっと自分の両腕を抱きしめる。
ほんの30分前には、海成の熱い腕の中に包まれていたというのに…。

ともすれば泣きたくなるのを、ぐっと堪える。
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