不器用な彼氏
おそらく、車まで誘導しようとしてくれているのだけれど、いきなり肩に触れられ、更に、思っていたよりも、案外強い力で押され、戸惑ってしまう…と、

『キャッ！』

突然目の前が暗くなって、何かが、上から被らされたのだと分かった。

次の瞬間、短髪君に触れられていない方の肩を誰かに掴まれ、強引に、後ろに引っ張られる。
視界を遮ったものを、取り払うその前に、頭上から怒りを含んだ聞きなれた声が、冷たく言い放つ。

『コンビニなら、俺が案内してやるが…？』

低く抑揚のない声で、問うその声は、私の心を大きく揺さぶる。
背中に触れる温かな胸板に、急激に高鳴る鼓動。

かぶせられたものを取り除くと、改めてそれが、浴衣の上に着る丹前であることを知る。

『いや、えっと、その…』

目の前では、先程の男の子達が、しどろもどろで、後ずさっている。

『何なら、俺が宿の場所も調べてやってもいいんだが？』

海成は、私を後ろ手に隠すように、前に出ると、明らかに威圧的な言い回しで、更に一歩詰め寄る。

彼らは、バツが悪そうな風体でお互いを見合うと、次の瞬間、照らし合わせたように、猛ダッシュでその場を立ち去ってしまった。

海成は、軽く舌打ちをすると、彼らを追いかけることはせず、静かに私を振り返る。
睨むように私に視線を向ける海成に、ドキリとする。

“なんで、海成がここに？…”と、疑問を口にする前に、

『お前、何考えてんだ？』

明らかに怒りを含んだ声音で、両腕を組んだまま見下ろされる。

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