不器用な彼氏
『お前、本気でアイツらの車、乗ろうとしてたのか?』
『…スマホ、私も忘れてきちゃったし、調べてあげられなかったから…』

彼らの困った顔が脳裏をよぎる。

『まさか、まだアイツらを信じてるんじゃねぇだろうな?』
『え?』
『宿の場所忘れたなんて、嘘に決まってるだろ?そもそも男三人いて、全員が携帯忘れるとかありえねぇ』
『でも…それは』
『第一、車が有りゃ、今時ナビ着いてるだろうし、先ずは、ひとしきり走って、交番かコンビニでも探すだろ?』
『あ…』
『そもそも、車降りて、声かけるなら、地元の人間に聞きゃあ良い。わざわざ宿の浴衣着た、明らかに観光客なんかに聞かねえ』
『…』
『ま、俺が来たことで速攻逃げたのが、動ぬ証拠だな』

ぐうの音も出なかった。言われてみたら、すべて海成の言うとおりだ。

『ったく、こんな時間に、しかもそんなカッコでウロウロして、襲ってくれと言ってるようなもんじゃねぇか』
『…』
『第一、宿の浴衣なんか、パジャマと一緒だろ』

尚も前を歩きながら、黙々と叱り続ける、海成の浴衣の袖口を、ぎゅと掴んで、歩みを停めさせる。

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