不器用な彼氏
『あ?』

振り向く海成の顔を見ることができない。
海成の話を聞いて、自分がいかに危険な局面にいたのかを思い知ったら、急に怖くなった。

あの時、海成が来なかったら、私…。
そう考えたら、震えが止まらない。

『私…、もしあのまま、車に乗ってたら…』

下を向いたまま、その先を想像するのが怖くなって、ギュッと目を閉じる。

『…やっとわかったか、アホが』

ホッとしたような優しい声音と同時に、温かな手が、私の頭に触れる。

そのまま海成の胸にそっと身を寄せると、触れていた大きな手で、大事なものを包み込むように、ぎゅと抱きしめてくれる。

『安心しろ。まだ、何も起きてねぇ』

海成のぬくもりが、私の目頭を熱くさせる。

さっき、この腕の中から、なぜ逃げ出してしまったのだろうと、今更ながらに思う。
海成が、来てくれてよかった。

この温かな居場所に戻れて、本当に良かった。
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