不器用な彼氏
海成は、それを確認すると、安心しろというように、フッと微笑むと、もう一度正面の海を見つめながら、静かに言葉を繋ぐ。
『正直、今日こんなとこで会うなんて、思っていなかったから、動揺したのは事実だ。俺の中で、ずっと気になってたのかもしれない』
『それって…』
『勘違いするな、そういう意味じゃねえ』
吹いてる風の向きが変わった。山側から吹いてた風が、今度は正面の海から吹き、さっきより少し温かい風が、髪を揺らす。
『当時、アイツには、他に男がいたんだ』
『え?』
『その男には、奥さんも子供もいたらしい』
『それって…』
予想外の事実に、思わず言葉を失う。
海成は、こちらを振り返らずに、淡々と続ける。
『俺はまだガキで、理香子を好きかどうかなんてよくわからなかったが、目の前で、叶わない相手を想ってボロボロになっていくアイツを、何故だか、放っておけなかった』
『…最初から知ってたの?』
『ああ、承知の上で、俺を利用してくれと言ったんだ…今思えば、本当に子供だったんだろうな?』
そういうと、自嘲気味に笑う。
他の人を愛する人の恋人になるなんて、自分には想像もできなかった。
そんな辛すぎる恋愛なんて…。