不器用な彼氏
『それだけ、理香子さんのこと好きだったのね?』
『…どうだかな?そん時は、ろくでもねぇ男に振り回されてるアイツを、救いたかっただけかもしれねえ』
ううん、きっと海成は自分で思っているより、彼女を好きだったはず。
なぜか、遠くを見つめながら淡々と語る彼を見つめながら、確証を持って、わかる気がした。
『…理香子さん、その人とは?』
『さあな。しばらくは、俺と付き合いながらも、そいつとも会ってたみたいだったが、その先は知らねえし、いちいち聞いたりもしなかった』
『…辛かったね』
『男がいるのを承知の上で交際してたんだから、仕方ねえ』
人の気持ちは、そんなに簡単に、割り切れるものじゃない。
きっと、海成だって別れてほしいと望んだに違いないのに。
二番目で良いなんて、偽善にも程がある。
そしてそれは、きっと彼女も一緒だったのだろう。
最も、その時、今と同じ立場だったら、ただ単に彼女を“最低女”だと、罵ったかもしれない。
理香子さんを非難するには、大人になりすぎた。
どうしょうもならない想いがあること、今なら少し分かるから…。
目の前に広がる広大な海を見つめながら、当時の二人が秘めていただろう、計り知れない複雑な感情を想うと、何も言葉が出て来なかった。
海成は、一呼吸つくと、
『まあ、そんな関係が長く続くわけがない、しばらくして、俺の方から別れを切り出した』
『え?海成から?』
『ああ』
別れ話は、勝手に彼女からのような気がしていた。
納得できない別れ方をして、ずっと忘れられないのかもしれないと。
『きっかけは忘れたが、いつからか、お互いの気持ちが離れていたような気がする』
海成は、当時の自分を振り返って、一つ一つ、その時の心情を思い出しながら語ってくれているようだった。