不器用な彼氏
思えば、ほんの出来心だった。いつもと違う進藤さんに、ちょっとしたイタズラ心が芽生えただけだったのだ。
『進藤さん、怖いなら、手、握っててあげましょうか?』
そういうと、おそらくそこに置かれているであろう、彼の武骨な手に人差し指を一本だけほんの少し触れてみる。
『ワッ!!』
『キャッ』
いきなり立ち上がる進藤さんにつられ、自分も椅子から滑り落ちてしまった。真っ暗で見えないが、前かがみで手をついたおかげで、お尻は打たずに済んだようだ。
とっさに椅子につかまろうと後ろに手を伸ばすが、どうやら落ちた時に、その勢いで後方へ移動してしまったらしい。仕方なく、手探りで捕まる場所を探していると、机につかまる前に、がっしりとした両腕に捕まえられ立ち上がらせてもらう。
『何やってんだ、バカ』
『す、すみません…ちょっとふざけました』
我ながら情けないやら恥ずかしいやら…。
立ち上がり、今度は自分の椅子を探そうと、あるであろう方向に足を進めるが、また何かにつまずき、今度はすぐ後ろにいた進藤さんのおかげで、転ばずに済んだ。
『お前なぁ…もうじっとしてろ!』
『すみません…』
さすがに、明かり一つないこの暗闇で動き回るのは、危険なようだ。
進藤さんが、おもむろに携帯電話を取り出し(あぁそうかその手があった)そのわずかな光の中で、私の椅子を手繰り寄せてくれる。
時折、先程の大きさ程ではないが、鳴り響く雷鳴に、やはり一瞬怯む大きな進藤さんの姿に、なぜか心臓がきゅんとなる。
『ほら、お前の椅子だ。大人しく座っとけ』