不器用な彼氏


…と、瞬間パッと電気が付き、私達は、はじかれるように離れると、互いに自分の席に座る。
心臓が半端なく鳴り響き、豪雨の音などかき消されてしまう。

"一体、何が起こったのだろう?落ち着け、落ち着け、落ち着け…"

後ろは振り向けないが、何となく同じように硬直した進藤さんの背中が容易に想像できた。

程なく、西側のドアが開き、外で作業してきた同僚達が戻ってくる。

『いや~寒っすね~暖まんね~と風邪引くわ』
『だな!風呂入るべ』
『台風並みの嵐ですね』
『俺、風呂入れて来ます』
『オオ、わりいな』

姿は見ることができないけれど、おそらくずぶ濡れなのだろう。寒さのせいか、皆、声が震えている。労いの言葉の一つかけるべきなのだけど、今振り向く勇気はない。

『お~い、進藤たち大丈夫か?』

坂井さんが心配して声をかけてくれる。

『問題ないです』

振り向けない私の代わりに、今度は進藤さんが答えてくれた。

ちょうどかかってきた電話に対応する為、事務職の社員が自分の席に戻り、ずぶ濡れになったらしき人達は“寒い寒い”と口にしながら、現場作業の人たちの為に作られた風呂場のある、3階に上がっていった。

“寒い?”私はこんなにも身体中が熱を持ったように熱いのに…。
< 26 / 266 >

この作品をシェア

pagetop