不器用な彼氏
『言ったぞ』
『…?』
『…お前の質問の答え』
『え?』

意味が分からず、聞き返すと、前を向いたまま、無然とした表情で、言う。

『いつ?』
『今朝』
『…私、聞いてない』
『お前、よく寝てたからな』
『…何て言ったの?』
『さあな…聞いてないお前が悪い』
『そんなぁ…』

左側に立つ海成を見上げると、その向こう側には、何百年もの、時を重ねた大楠の巨大な幹。
ダメ元で『もう一度…』と、問うも、『こんなトコで言えるかバカ』と一喝。

私の知らない間に、言ってくれたセリフは、どんな言葉だったのだろう?

その…おそらく甘美であろう言葉に、想いを馳せるが、どうにも想像ができない。
ああ、せめて意識のあるうちに、聞いておくんだった…と後悔する。

大楠の一周巡りも、もう残りわずか。

今一度、大楠を見上げて、太い幹に刻まれる、年月の深さを感じ取る。
2000年なんて、想像もつかないほど、永くなくても良い。

その何十分の一でも、海成と共にいたいと願った。
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