不器用な彼氏

『料理、適当に頼んどいたぞ』
『あ、はいッ』

正直、食事など食べるどころではない。

個室は、二人がけの椅子とテーブルが向い合わせになっているのだけれど、向いの席は進藤さん一人で充分スペースを使っていて、割とゆったりと作られている個室が、ずいぶん狭く感じてしまう。

『何か、緊張しますね…』

思わず、今の心情を吐露するも

『席が向かい合わせになってるだけで、職場と一緒だろ』

平然と言い放つ。心の中で“いや、それ全然違うでしょ!”と突っ込みを入れたくなるけれど、我慢。

うちは、営業担当以外は指定の制服(作業着)があるので、通勤服は自由なのだけど、業務時間外に、こんな風に完全な私服姿の進藤さんは初めてで、どこを見たらいいのか、わからない。

しかも二人きり…なんて。

『お待たせしました』

良いタイミングで飲み物が運ばれてくる。大学生風の女性店員が、生ビールと共にお通しの小鉢を置いて

『他にご注文ありましたら、ボタンを押してお呼びください』

そう言うと、いそいそと立ち去ってしまう。他人から見たら、いい歳した男女の組み合わせの私達。一体どう見られているのだろうと、気になって、頭から離れない…。
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