不器用な彼氏
『じゃ、お疲れ』
『あ、ハイっお疲れ様です』
テンパリ過ぎて、声がうわずってしまう。のどがカラカラで、運ばれてきたジョッキを両手で掴み一気に飲み込む。
『フッ、緊張しすぎだろ、お前』
吹き出す進藤さん。今日初めての笑顔ゲットに、心の中でガッツポーズ!
『しますでしょ。普通』
『この前の勢いは、どうした?』
『こ、この前は、進藤さんだって、すっごい緊張してたじゃないですか?』
『あん時はさすがにな。なんせ誰かさんが、急に迫ってくるから』
『なっ!』
顔がみるみる赤面しているのがわかる。よみがえる嵐の夜の出来事。
『迫ってないし!』
と、タイミング悪く、暖簾の向こう側から遠慮がちに『お料理お待ちしました…』との声。
『…』
『…失礼します』
進藤さんが先に注文していた、いくつかの料理が運ばれてくる。テーブルに置きながら、なぜか頬を赤らめる女子店員。完全に、何かを誤解されている気がする。前では進藤さんが、必死に笑いを堪えている。
『…ごゆっくりどうぞ』
意図的に伏し目がちな店員が退席すると、堪りかねたように笑い出す進藤さん。
『…絶対誤解されたし…』
『だな!あぁ~面白れぇ~!』
大笑いしている彼を見て、悔しいのだけど、少し嬉しくなるから不思議だ。だって、こんな進藤さん初めて見る。職場では、いつもしかめっ面で怒ってばかりなのに。